- 大学院進学を考えていますが、進学後の進路が不安です。先輩たちの進路を教えてください。
社会教育学研究室と図書館情報学研究室では、少し傾向が違います。社会教育学研究室では、大学や研究機関への就職が最も多くなっています。社会教育は、各個人の守備範囲が広いので、いわゆる社会教育の領域だけでなく、労働や環境、福祉、文化などの研究領域での就職も増えてきています。在籍の院生の中にも、行政区分としての社会教育の領域だけではなく、スローフード運動、ロハス、子ども学校外教育、民衆教育メディアとしての絵図・講演、遠隔教育、高齢者教育、そしてまちづくりなどの研究をしている者が増えています。これらの専門知識を活用し、NPOやNGOなどで教育実践を続ける先輩もいます。図書館情報学では、司書課程のコースを開講している大学に就職する人や、情報コミュニケーション関係の学部に職を得る人、修士課程を終了後、大学図書館や公共図書館で活躍する人、メディアや出版関係に勤める人がいます。いずれの領域でも、常勤の職を得る前に、しばらく非常勤の仕事を続ける人もいますが、全体として、今のところ、文科系の大学院としては、就職状況は良好であると言えます。
- 東京大学の教育学研究科では博士号の基準が高いため、博士号を取りにくいと聞いたことがあります。本当でしょうか。
博士号の資格を取りにくいのは、これまで日本の文科系諸学一般の特徴でした。最近は全体に、きちんと研究を進めれば、3年から5年で博士号を取ることができるようになってきており、東京大学教育学研究科でもそうなっています。生涯学習基盤経営コースでも、博士号を3年から5年で取得する先輩が増えています。スタッフも2年前から博士論文執筆指導体制を強化しており、今後は、もちろん一人一人の努力次第ではありますが、特別に取りにくいという印象を生み出す状況はどんどん解消されていくと思います。
- 現在、図書館(公民館)に勤めており、大学院で勉強しなおしたいと考えています。将来は現場に戻りたいと考えているのですが、意味はあるでしょうか。
図書館を例にすると、何を身につけたいかによって「意味」があるかどうかは違ってきます。現在、電子情報流通の発達や指定管理者制度の導入などに伴い、図書館の現場自体が大きな変容を迫られています。そうした中で、日々の実務をより大きな目で見直し、図書館を良くしていくための着想を得たりや考え方を身につけたり、マネージメントのノウハウを身につけるためには、大学院で学ぶことは大いに意味があると思います。一方、例えば、目録とり方といった、現場の日々の実務に関する訓練のコースは開講していませんので、純粋に仕事の訓練として直接意味がある内容は、残念ながら提供していません。
- 理系の出身ですが、もう少し実社会と直接接する研究をしたいと思っています。理系の背景でも、大学院入試は大丈夫でしょうか。また、入学後、ついていけるでしょうか。
大学院入試には、専門科目がありますから、それについては勉強していただく必要があります。ほかに、英語の試験もクリアしなくてはなりません。ただ、きちんと勉強すれば、文理の背景の違いはそれほど大きな問題ではないと思います。入学後も、背景となる知識をカバーするための勉強は必要になるでしょうが、きちんと勉強・研究すれば大丈夫だと思います。
- 研究室のコンピュータ環境を教えてください。
基本的に、大学院生一人一台のコンピュータが使えます。図書館情報学研究室では、MacとLinux (Ubuntu/Debian等)が主流でWindowsマシンもかなりあり、社会教育学研究室ではWindowsマシンが主流です。ネットワーク接続環境、プリンター等の周辺機器も文科系の研究室としてはかなり充実しています。
- 対社会的関係を重視していると言いますが、具体的に、コースの教員はどのような実践活動をしているのでしょうか。
時期によって違いますが、2008年の時点で、牧野は、ジェロントロジー(老年学)の分野との融合をはかりつつ、高齢化と過疎化に対応した新しい社会モデルの形成を、東大のジェロントロジー機構(2009年度より立ち上げ。いまは、寄付研究部門)および国内の自治体との協力によって行ってきており、2009年度からはそのモデルの実証実験をある自治体を舞台にして行います。これらの調査・研究には、大学院生も参加して、調査研究の力量を高めています。二つは、少子高齢化の状況とそれに対応する新しいコミュニティのありかたを模索するための国際共同研究を、東アジア諸国・地域(日本・中国・韓国・台湾)の研究者とともに進めています。三つは、東アジア地域のコミュニティ教育を、とくに中国のコミュニティ学院と台湾のコミュニティ大学を対象として、実地に研究しています。このほか、東アジア地域の歴史認識問題へのコミットメントなど、いろいろやっています。根本は、千代田区図書館評議会会長、奈良県立図書情報館経営委員、いわき市図書館アドバイザーを務めるほか、日本図書館協会、全国学校図書館協議会、国立国会図書館、各地の教育委員会・図書館で講演活動を行っており、これらによって培った社会的ネットワークを研究教育に積極的に活用しています。影浦は、情報メディア環境の変容に伴う情報発信・流通の将来像を考慮に入れ、特に多言語で情報発信を行う新たなメディア・ネットワークのモデルを展開するために、オンラインの翻訳者に適した情報環境を構築してその実用化を進めており、Global Voicesの翻訳チームや戦争ではなくお茶をの翻訳者など、個人翻訳ボランティアやNGO・NPOの翻訳活動と情報発信活動を支援する実践を行っています。その関係で、自由学校での翻訳論やNPO資料読解の講義を通したアクション・リサーチ型の研究も行っています。
- 教員は、どのような学会・学術コミュニティで研究活動を行っているのでしょうか。
国内では、日本図書館情報学会、日本社会教育学会、日本生涯教育学会が、最も強く関係する学会です。根本は2008年現在、日本図書館情報学会の会長を務めており、三田図書館・情報学会でも活発に活動しています。牧野は、日本教育学会では、機関誌編集委員を担当しました。2009年度、東大で開かれる第68回大会の実行委員会事務局長も務めています。日本社会教育学会では、全国理事を担当、年報編集委員でもあります。歴史・中国・アジア関係等と関わる研究をしているため、アジア教育学会や教育史学会でも活動し、アジア教育学会では理事および機関誌編集委員会委員長を、教育史学会では、機関誌編集委員を担当しています。このほかに、日本比較教育学会会員、日本現代中国学会会員です。影浦は、情報メディアと言語の関係を扱っていることから、日本図書館情報学会のほか、計量国語学会、言語処理学会でも活動し、理事等を歴任しています。
国際的には、図書館情報学系では、国際図書館連盟(International Federation of Library Associations and Institutions: IFLA)や米国図書館協会(American Library Association: ALA)の会議、American Society for Infromation Science and Technologyの会議や論文誌、Information Processing and Managementなどが発表の場で、他にアジア太平洋図書館・情報教育国際会議(A-LIEP)などの定期的な国際会議があります。影浦は、言語・情報分野寄りでも活動しており、国際計量言語学会(International Quantitative Linguistic Association)、Terminology誌、研究書シリーズTerminology and Lexicography: Research and Practiceの理事や編集委員長を務めるほか、計算言語学系の国際会議(COLING、ACL等)も活動の場としています。社会教育学・生涯学習論系では牧野が東アジアを中心とした教育・教育史関係の学会で活動しています。特に、台湾中正大学高齢者教育研究所の高齢者教育シンポジウムには毎年招かれています。
- 大学院教育は英語で行っているのでしょうか。
現在、教育学研究科の大学院教育は、共通言語として日本語を使っています。けれども、中期滞在するインターンや訪問滞在学生への研究指導は必要に応じて英語で行っています。